写真のようなレスキューセット、カタログ等で見かけた方も多いかと思います。
バールやハンマー、ツルハシなどが入っていて、倒壊家屋で下敷きになった方の救出に役立ちそうです。 専用台車も付いて十数万円です。
さて、ここで問題です!
皆さんの自治会で、ある年に予算が余りました。
では、このレスキューセット、自治会備品として購入しますか?
YES? NO?
■答えは?
防災に絶対的な正解はありません。その時々の状況によっても変わります。
でも、ある程度一般的な答えはありそうです。
このレスキューセット、救助に役立つのは間違いありません。
ただ、私たち彩防災企画の見解としては「買わないほうが良い」です(自治会としては)。
十数万円出してレスキューセットを1セット買うよりも、もし無線を持ってないならデジタル簡易無線を6台買うべきと考えます。
さらに誤解を恐れずに極論を言えば「レスキューセットは無いほうが良い」です(自治会としては)。
「えっ?」と多くの方が驚くかもしれません。
■なぜ?
正確に言えば「ある一軒の救助には役立つかもしれないけど、弊害のほうが大きい」ということがあります。
これは 災害時にどんな状態になるのか、具体的に想像すると見えてきます。
直下型の震度7の地震が見舞われたら、町内で何棟くらいが崩壊・倒壊するか、ある調査方法で確率的な数字が得られます。
その数字を知ると「なぜ?」がはっきり見えてきます。
ある町内では、震度7で崩壊・倒壊が 80 棟という衝撃的な被害予測結果でした。
さて、想像してみてください。
あなたは自治会役員です。
強い余震の中、会館にたどり着きましたが、集まった役員はこの時はまだ3人。
あなたは会館の玄関で火災がないか、通りの様子はどんなか、外の様子を見ています。
その時です。
左から走ってくる人が。「おばあちゃんが下敷きです! 役員さん!レスキューセットですぐに助けてください!」
と同時に右から走ってくる人が。「子供が生き埋めになりました! 役員さん! レスキューセットですぐに助けてください!」
もちろん、レスキューセットは1セットしかありません。
「こっちが先だ!」「いやこっちが先だ!」
「役員さん、どうするんですかっ!」
板挟みになって、あなたはどうします?
そうこうしている間に、「レスキューセットを持ってきて!」と救出の要請に来る人がどんどん膨れ上がってきます。
さあ、あなたはどうします?
このような板挟みにさらされ、立ち往生して貴重な時間を取られるわけにはいかないのです。
自治会役員として急いでやらなければいけないことが山積しているのです。
そういう意味では、「レスキューセット1セット」など無いほうが良いと言えます。
80 棟が倒壊・崩壊した時にレスキューセットが1セットあっても、焼け石に水なのです。
もちろん、震度5弱で街の被害はほとんど無いが、町内で相当に老朽化していた1棟のみが倒壊したというケースもあるかもしれません。
その時は確かに1セットのレスキューセットの出番かもしれませんが、そのくらいの状況では消防・警察もすぐに駆け付けて、自治会のレスキューセットが運ばれるよりも早く、プロによる救助が始まります。
他の備品よりも優先してレスキューセットを購入する必要性は小さいのではないでしょうか?
どうしてもと言うのなら、80棟崩壊・倒壊の激甚災害に備えて 一千万円以上かけて百セット位買うことになるのですが、会館がレスキューセットで埋め尽くされます。予算面でも収納スペースでも現実的ではありません。
それよりも、御近所の各家庭からノコギリや車に備え付けのジャッキなどを持ち寄ればよいのです。
そして、救助するのは役員ではなく御近所の人なのです。
■自治会の役割と、やるべき事が見えてくる
この「なぜ?」を考えるようになると、漠然としていた「住民の役割、自治会の役割」「自治会役員がやるべき事」がはっきり見えてきます。
なので、このレスキューセットの問いかけは、自治会防災を考える ”お題” として有意義です。
さあ、皆さんも一緒に想像して、考えてみませんか?
彩防災では、私が役員を務める町会での具体例をご紹介しながら、お手伝いします。
また、発災直後の初動で何をどうすれば良いのか、不安に思った方も多いと思います。
彩防災では、初動で何をすべきか整理し、役員の初動訓練を行ってきた経験があります。是非お役立てください。